店舗や事務所を借りるとき、借主から貸主へ「保証金」や「敷金」を預ける契約があります。
借主は「退去すれば返ってくるお金」と考えやすい一方、貸主は「原状回復費や未払い賃料に備えるお金」と考えます。さらに契約書に「償却」「敷引き」「返還率」といった条件が設けられていると、実際の返還額は預けた金額と大きく異なることがあります。
保証金の精算は、契約終了時に貸主・借主の認識がずれやすい項目の一つです。
今回は、店舗・事務所などの事業用賃貸を念頭に、保証金・敷金・礼金の違い、返還時期、差し引ける費用、償却や敷引きの確認方法を解説します。
「保証金」という名称だけでは、返還条件は分からない
民法では、名称を問わず、賃料など賃貸借契約から生じる借主の金銭債務を担保する目的で貸主へ交付する金銭を「敷金」と定義しています。
そのため、契約書に「保証金」と書かれていても、未払い賃料や原状回復費などを担保し、契約終了後に残額を返還する性質のものであれば、民法上の敷金に当たる可能性があります。
一方、保証金の一部を契約終了時に返還しない「償却」や、一定額を差し引く「敷引き」が契約で定められることもあります。
つまり、「保証金だから返る」「敷金だから全額返る」と名称だけで判断することはできません。何のために預けるお金か、返還される範囲はどこまでかを、契約書の条項から確認する必要があります。

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保証金・敷金・礼金・償却の違い
保証金・敷金
賃料、共益費、原状回復費など、借主が契約上負担する債務を担保するために貸主が預かるお金です。契約終了後、明渡しが完了し、借主が負担すべき金額を差し引いた残額が返還されるのが基本です。
礼金
契約成立時に貸主へ支払う金銭で、一般に返還を前提としません。保証金や敷金とは異なり、借主の債務を担保する預り金ではありません。
償却
契約終了時などに、保証金から一定額または一定割合を返還しない取り決めです。「保証金の20%」「賃料2か月分」など、契約によって定め方が異なります。
敷引き
敷金や保証金から、契約で定めた金額を差し引いて返還する取り決めです。実務上は償却と似た意味で使われることがありますが、契約書で何を、いつ差し引くのかを確認する必要があります。
事業用物件では、契約期間によって返還率が変わる条件もあります。たとえば短期間で解約した場合は返還率を低くし、長く借りるほど返還率を高くする契約です。
募集資料に「保証金6か月」と書かれていても、実際に返還される金額は償却や返還率によって変わります。借主は初期費用だけでなく、退去時に戻る可能性のある金額まで確認しましょう。
保証金はいつ返還する?
民法上、敷金に当たる金銭は、賃貸借契約が終了し、借主が物件を明け渡した後に返還義務が生じるのが原則です。
解約通知を出した日や契約終了日になれば、直ちに返還されるとは限りません。借主による荷物や造作物の撤去、鍵の返却などを終え、貸主へ物件を明け渡したことが基準になります。
事業用賃貸では、原状回復工事や精算内容の確認に時間がかかるため、「明渡し後30日以内」「明渡し後60日以内」など、返還期限を契約書に定めることがあります。
貸主は精算作業に必要な現実的な期間を設定し、借主は退去後の移転費用や次の物件の保証金を、返還前に用意する必要があるか確認しておきましょう。
保証金から差し引かれる可能性がある費用
保証金や敷金は、借主が契約に基づいて負担すべき債務が残っている場合、その金額を差し引いて精算します。
事業用物件で精算対象となることが多いものには、次のような項目があります。
・未払いの賃料、共益費、駐車場代、看板料
・貸主が立て替えた水道光熱費など
・契約に基づいて借主が負担する原状回復工事費
・残された什器、造作物、看板、廃棄物の撤去費
・鍵や貸与物を紛失した場合の交換・再発行費用
・契約で定めた償却額や敷引き額
ただし、貸主が希望する費用をすべて自由に差し引けるわけではありません。賃貸借契約書、原状回復条項、工事区分、物件の損傷状況など、差し引く根拠を示す必要があります。
償却額とは別に原状回復費を差し引く契約なのか、償却額に一部の原状回復費が含まれるのかも重要です。同じ費用を重ねて差し引くことがないよう、契約内容と精算項目を整理する必要があります。

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事業用物件の原状回復は、住宅と同じとは限らない
住宅では、通常の使用による損耗や経年変化を貸主負担とする考え方が広く知られています。
しかし、店舗や事務所では、借主が内装、間仕切り、看板、空調、厨房設備、給排水設備などを設置することが多く、契約で退去時のスケルトン返しや、借主による設備撤去を定めるケースがあります。
そのため、住宅の原状回復ルールをそのまま事業用物件へ当てはめることはできません。契約書、工事承認書、引渡し時の状態、居抜きや残置物の取り決めなどを総合して確認する必要があります。
借主が前のテナントから造作を引き継いだ場合でも、退去時には自分が撤去義務を負う契約になっていることがあります。「自分が設置したものではない」という理由だけで撤去義務がなくなるとは限りません。
貸主が管理しておきたい5つのポイント
1.預かった金額と返還条件を台帳で管理する
契約ごとに、保証金額、償却額、返還率、返還期限を整理します。契約更新や条件変更があった場合は、最新の内容に更新しましょう。
2.返還予定額を運転資金と混同しない
将来返還する可能性がある部分は、貸主にとって返還義務のある資金です。退去が重なっても返還できるよう、資金繰りを考えておく必要があります。
3.入居時の状態を写真と書面で残す
引渡し時の写真、設備表、内装の状態、残置物などを記録しておけば、退去時にどこまで借主が復旧すべきか判断しやすくなります。
4.退去前に原状回復の範囲を打ち合わせる
工事着手後に認識違いが判明すると、費用と時間が余計にかかります。解約通知を受けた段階で現地確認を行い、撤去・修繕範囲を共有することが大切です。
5.精算明細を借主へ提示する
預かった金額、償却額、未払い金、原状回復費、返還額を分けて記載します。工事費を差し引く場合は、見積書や請求書などの根拠も整理しましょう。
借主が契約前・退去前に確認したいこと
借主は、保証金の月数だけで物件を比較せず、実際に返還される条件を確認する必要があります。
契約前には、償却の有無と計算方法、契約期間による返還率、原状回復の範囲、返還時期を確認しましょう。
退去前には、スケルトン返しが必要か、貸主指定業者による工事が必要か、残してよい設備があるかを確認します。貸主の承諾を得ずに造作物を残した場合、撤去費用を保証金から差し引かれる可能性があります。
また、保証金の返還を次の店舗の初期費用に使う計画の場合、返還時期のずれに注意が必要です。新店舗の契約金や工事費が先に必要となることを想定し、資金計画を立てておきましょう。
物件の売買時には、保証金の承継も確認する
テナントが入居したまま物件を売買する場合、保証金・敷金の返還義務を新しい所有者が引き継ぐことがあります。
売買代金の精算時には、各テナントから預かっている保証金の金額、償却済み部分、契約変更の履歴を確認し、新旧所有者間で承継額を明確にする必要があります。
売主から買主へ現金が実際に引き渡されていない場合でも、借主に対する返還義務の扱いがなくなるとは限りません。収益物件を購入する際は、賃料収入だけでなく、将来返還する保証金債務も確認することが重要です。
まとめ
店舗・事務所の保証金は、単に「退去時に戻るお金」ではありません。未払い賃料や原状回復費などを担保する預り金であり、償却、敷引き、返還率の条件によって返還額が変わります。
貸主は、預かった金額と返還条件を管理し、退去時には差し引く費用の根拠を明確にすることが大切です。借主は、契約時の支払額だけでなく、退去時に何が差し引かれ、いつ返還されるのかまで確認する必要があります。
契約時、入居時、退去前、明渡し時の各段階で書面と写真を残し、精算方法を共有することが、貸主・借主双方のトラブル防止につながります。
テナントテラスでは、滋賀県内の店舗・事務所・倉庫などの事業用物件を取り扱っています。保証金や原状回復を含む契約条件、退去後の再募集、物件の売却・活用についてもお気軽にご相談ください。
参考情報
・国税庁「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」
※本記事は、事業用賃貸における保証金・敷金の一般的な考え方を紹介するものです。返還条件、原状回復義務、償却条項の有効性などは、契約内容や経緯によって判断が異なります。個別の法律・税務判断については、弁護士、税理士などの専門家へご相談ください。













