店舗や事務所の賃貸借契約では、借主に火災保険への加入を求めることがあります。
ここで起こりやすいのが、「建物は貸主が保険に入っているから、借主は加入しなくてもよいのでは?」「借主が火災保険に入れば、貸主側の備えは十分では?」という認識のずれです。
実際には、貸主と借主では所有するものも、事故によって負う可能性のある責任も異なります。また、一般に「火災保険」と呼ばれる契約でも、設備・什器、借家人賠償責任、第三者への賠償、休業損失などがすべて自動的に補償されるとは限りません。
今回は、店舗・事務所などの事業用物件を念頭に、貸主と借主がそれぞれ確認しておきたい補償の基本を整理します。
「火災保険」という一つの保険で、すべてを守れるわけではない
事業用物件の保険を考えるときは、まず「何が損害を受けたのか」と「誰が誰に対して責任を負うのか」を分けることが大切です。
たとえば、建物本体は貸主の所有物ですが、店内の内装、厨房機器、パソコン、商品などは借主の所有物であることが一般的です。貸主の建物保険だけでは、借主が所有する設備や商品まで補償されないことがあります。
一方、借主の不注意で火災や漏水が発生し、借りている建物を損傷させた場合には、借主が貸主に対する賠償責任を負う可能性があります。来店客や隣接店舗に損害を与えれば、別の賠償責任が問題になることもあります。
さらに、建物や設備の修理費が補償されても、営業できない期間の売上減少や、貸主の家賃収入の減少まで同じ契約で補償されるとは限りません。
そのため、保険証券に「火災保険」と書かれているかどうかだけではなく、保険の対象、補償する事故、賠償責任の範囲、支払限度額、免責金額、特約を確認する必要があります。

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貸主が確認したい補償
1.建物本体と貸主所有設備の補償
貸主は、所有する建物を保険の対象に含めているかを確認します。火災だけでなく、落雷、風災、水災、給排水設備の事故による水濡れなど、どの事故が補償対象になるかは商品や契約プランによって異なります。
建物と一体になった設備、貸主が設置した空調や給排水設備、看板なども、契約上どのように扱われるか確認が必要です。同じ建物内でも、貸主所有と借主所有の設備が混在していることがあります。
2.建物の所有・管理に伴う賠償責任
建物の外壁や看板の落下、共用部の管理不備などによって第三者にけがや物的損害を与えた場合、貸主が法律上の賠償責任を負う可能性があります。
建物の火災保険に加入していても、第三者への賠償責任が当然に含まれるとは限りません。施設の所有・管理に関する賠償責任補償の有無を確認しましょう。
3.事故による家賃収入の減少
火災などで建物が使用できず、賃料を受け取れない期間が生じることがあります。この家賃損失は、建物の修理費とは別の損害です。
保険商品によっては家賃損失を補償する特約などがありますが、補償期間や対象事故には条件があります。賃料収入が返済や維持管理費の原資になっている場合は、復旧までに必要な期間も想定して検討することが大切です。
借主が確認したい補償
1.内装、設備・什器、商品などの補償
借主が所有する内装、厨房機器、エアコン、デスク、パソコン、商品、原材料などは、貸主の建物保険では補償されないことがあります。
自社の財産を保険の対象に含め、実際の保有額に見合う保険金額になっているか確認しましょう。開業後に設備や在庫が増えた場合は、契約時の金額のままでは不足する可能性があります。
2.借りている建物に対する賠償責任と修理費用
借主の責任で借用部分を損傷させた場合に備えるものとして、借家人賠償責任や借用施設に関する修理費用の補償があります。
たとえば、店舗の厨房から出火して借用部分を損傷させた場合や、借主が管理する設備から漏水して床や壁を傷めた場合などが考えられます。ただし、補償される事故や費用、賠償責任の有無は個別に判断されます。
3.来店客や隣接店舗など第三者への賠償責任
店内で来店客が転倒した、従業員が商品を破損した、漏水が階下の店舗へ及んだといった事故では、第三者に対する賠償責任が問題になります。
これは貸主に対する借家人賠償責任とは別です。事業活動や施設の使用・管理に伴う賠償責任を補償する契約が必要か、業種や店舗の使い方に応じて確認しましょう。
4.休業中の利益や継続費用
建物や設備が復旧しても、休業中に失った売上が戻るわけではありません。賃料、人件費など営業できない間も発生する費用や、仮店舗での営業に必要な費用が生じることもあります。
休業損失や利益の減少を補償する商品・特約もあります。物理的な損害の補償だけで事業を再開できるか、資金繰りの観点からも検討する必要があります。
混同しやすい3つの違い
建物の保険と、借主の設備・商品の保険は別
貸主が建物を保険の対象にしていても、借主が持ち込んだ設備、什器、商品まで同じ保険で守られるとは限りません。所有者と保険の対象を照らし合わせる必要があります。
借家人賠償責任と、第三者への賠償責任は別
借家人賠償責任は、主に借りている建物について貸主に負う賠償責任への備えです。来店客、近隣店舗、取引先などへの賠償責任とは対象が異なります。
建物・設備の復旧費用と、失われた収入は別
修理費が補償されても、貸主の家賃収入や借主の営業利益まで補償されるとは限りません。復旧までの期間に発生する収入減少は、別に確認が必要です。

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契約時に貸主・借主で確認したい7つのポイント
1.誰が所有する何を保険の対象にするか
建物、内装、造作、空調、厨房機器、什器、商品などを一覧にし、貸主所有か借主所有かを確認します。残置物については、所有権や修理義務が曖昧になりやすいため注意が必要です。
2.補償される事故の範囲
火災以外に、落雷、風災、水災、水濡れ、盗難、破損などが対象になるかを確認します。立地、建物の構造、階数、業種によって想定するリスクは変わります。
3.保険金額、支払限度額、免責金額
加入している事実だけでなく、事故時にいくらまで支払われるか、自己負担額はいくらかを確認します。設備の更新や物価上昇により、再取得に必要な金額が契約当初より増えている場合もあります。
4.賠償責任の相手と対象事故
貸主に対する賠償と、来店客や近隣店舗など第三者に対する賠償を分けて確認します。契約名称だけで判断せず、約款や補償内容の説明で対象を確かめましょう。
5.物件の所在地、使用目的、業種が正しいか
店舗か事務所か、飲食を行うか、火気を使用するかなど、実際の利用状況を正しく申告します。移転、業種変更、増改築、設備の追加があった場合は、保険会社や代理店への連絡が必要か確認しましょう。
6.加入証明と更新状況
賃貸借契約で借主の保険加入を求める場合、貸主や管理会社は保険証券や加入証明書で契約内容と保険期間を確認します。自動更新と思い込まず、退去まで補償が切れていないかを管理することが大切です。
7.事故時の連絡先と手順
貸主、管理会社、保険会社・代理店、警備会社などの連絡先を共有します。営業時間外に事故が起きた場合の窓口も確認しておくと、被害拡大を防ぎやすくなります。
事故が起きたときの初動
火災や漏水などが発生したときは、人命の安全確保と消防・警察などへの通報を最優先にします。そのうえで、貸主または管理会社、保険会社・代理店へ早めに連絡します。
安全を確保できる範囲で、損害箇所を写真や動画で記録し、発生日時、状況、応急対応の内容を残しておきましょう。被害拡大を防ぐための緊急対応は必要ですが、大規模な修理、廃棄、相手方との示談を進める前に、保険会社へ相談することが大切です。
貸主と借主のどちらに原因があるかがすぐに分からない事故もあります。初期段階で責任を決めつけず、現場記録、設備の管理状況、専門業者の調査、契約内容をもとに整理します。
賃貸借契約の「保険加入義務」も具体的に
契約書に「借主は火災保険へ加入すること」とだけ書かれていても、必要な補償が確保されているかは分かりません。
貸主側は、物件や業種のリスクを踏まえ、借家人賠償責任の支払限度額、必要な第三者賠償、保険期間、加入証明の提出、更新時の確認などを契約条件として整理します。
ただし、特定の商品名だけを指定するのではなく、なぜその補償が必要なのかを借主へ説明し、借主自身の設備・商品や休業リスクについては、事業規模に応じて保険会社・代理店と相談してもらうことが大切です。
借主側も、契約条件を満たすためだけに最低限の保険へ入るのではなく、自社の財産、賠償責任、営業継続に必要な資金を含めて考えましょう。
まとめ
テナントの火災保険は、貸主と借主のどちらか一方だけが加入すれば十分というものではありません。
貸主は建物と貸主所有設備、建物管理に伴う賠償責任、家賃損失などを確認します。借主は自社の内装・設備・商品、貸主に対する賠償責任、第三者への賠償責任、休業損失などを確認する必要があります。
大切なのは、保険の名称ではなく、「誰の、何を、どの事故から、いくらまで守るのか」を整理することです。賃貸借契約の締結時だけでなく、契約更新、設備追加、用途変更の際にも補償内容を見直しましょう。
テナントテラスでは、滋賀県内の店舗・事務所・倉庫などの事業用物件を取り扱っています。貸主・借主それぞれの立場を踏まえた契約条件や物件活用についても、お気軽にご相談ください。
参考情報
※本記事は、事業用物件に関係する損害保険の一般的な考え方を紹介するものです。実際の補償内容、保険金の支払条件、免責事項は保険商品、契約プラン、特約、事故状況によって異なります。加入・見直しの際は、保険会社または保険代理店へご相談ください。また、個別の賠償責任に関する法律判断は弁護士などの専門家へご相談ください。













