通勤や通学、通院、買い物など、私たちの日常生活を支えている鉄道や路線バス。
一方、滋賀県内では地域によって運行本数や利用できる交通手段に大きな差があり、自家用車や家族による送迎に頼らざるを得ない地域もあります。
こうした課題に対応するため、滋賀県は2026年3月に「滋賀地域交通計画」を策定しました。その施策を継続的に進めるための財源として検討されているのが、一般に「交通税」と呼ばれることもある「新たな税」です。
ただし、2026年10月時点で、新たな税の導入や税率、徴収開始時期が決まったわけではありません。
今回は、滋賀県が目指す公共交通の姿と新たな税の検討状況、期待される効果や課題を客観的に整理します。
「滋賀地域交通計画」とは?
滋賀地域交通計画は、県内の地域交通を維持・充実させるため、滋賀県が2026年3月に策定した計画です。計画期間は2026年度から2030年度までの5年間で、対象地域は滋賀県全域です。
計画では、鉄道、路線バス、タクシー、コミュニティバス、デマンド交通などを地域の実情に応じて組み合わせ、自家用車を運転できない人にも移動手段を確保することを目指しています。
2030年度に向けた主な方向性として、次のような内容が示されています。
・交通の軸となる一部のバス路線で、1時間に2本以上の運行モデルをつくる
・市町の区域を越えた移動を調整する広域連携の仕組みをつくる
・駅から目的地までをつなぐコミュニティバスやデマンド交通を充実させる
・自動運転やキャッシュレス化など、新しい技術の導入を進める
・地域交通の利用者数を、2025年度の1.17倍以上にする
単に現在の路線をそのまま残すのではなく、地域ごとの利用状況を踏まえながら、再編や効率化も進める計画です。

実在する駅や車両を撮影・再現した写真ではありません。
地域によって異なる滋賀県の交通事情
滋賀県内の交通事情は、地域によって大きく異なります。
大津・湖南地域では鉄道の利便性が比較的高い一方、バスの運行本数は路線によって差があります。甲賀地域ではJR草津線が移動の軸ですが、鉄道やバスの本数が少ない地域もあります。
湖東や東近江地域では、JR琵琶湖線と近江鉄道で運行本数に差があります。湖西・湖北地域では、鉄道やバスの本数に加え、夜間の移動手段が限られ、自家用車や家族の送迎への依存が課題とされています。
高齢者や学生、運転免許を持たない人にとって、公共交通は生活そのものを支える基盤です。また、家族による送迎が増えれば、働く世代の時間的な負担にもつながります。
公共交通の問題は、利用者だけではなく、家族、企業、店舗、医療機関など、地域全体に関係する課題といえます。
なぜ「新たな税」が検討されているのか
滋賀地域交通計画に掲げられた施策を実施するには、相応の費用が必要です。
県の計画では、最終年度となる2030年度に県が負担する単年度の概算額を、約28.7億円から58.0億円と見込んでいます。国の補助率や県の制度設計が確定していないため、金額には幅があります。
県は、まず利用促進や運賃の見直し、デジタル化による運営コストの抑制、国費の獲得、既存事業の見直しなどに取り組むとしています。
それでも財源が不足する場合に備え、地域交通を安定して支える方法の一つとして「新たな税」の検討が続けられています。
県は、公共交通が維持されることによる効果は、実際の利用者だけに限られないと説明しています。家族の送迎負担の軽減、道路渋滞の緩和、企業の人材確保、観光客の移動、地域のにぎわいなど、幅広い効果が考えられるためです。
現在検討されている負担の仕組み
2026年3月に示された検討資料では、既存の県税に税額を上乗せする「超過課税方式」が候補となっています。
個人については、個人県民税の均等割と所得割を組み合わせる方向で検討されています。法人については、法人県民税の均等割を基本に検討しつつ、赤字の中小法人に過度な負担が生じる場合には、法人税割や法人事業税を対象とする案も示されています。
個人と法人の税収負担の割合については「1対1」または「3対2」を基本に検討するとされています。
資料には複数の税収規模を想定した試算も掲載されていますが、これは制度を比較するための機械的な試算です。実際に徴収される税額や税率が決定したものではありません。
また、税収を何に使うのか、市町へどのように配分するのか、効果をどのように検証するのかも、引き続き検討される段階です。

実在する地域や車両を撮影・再現した写真ではありません。
期待される効果と確認したい課題
期待される効果
公共交通が便利になれば、高齢者や学生の移動手段が確保され、家族の送迎負担が軽減されます。企業にとっては、通勤できる範囲が広がることで人材を確保しやすくなる可能性があります。
駅やバス停から店舗、医療機関、観光地への移動がしやすくなれば、地域を訪れる人の行動範囲が広がることも考えられます。
確認したい課題
一方、新たな税を導入すれば、個人と法人の双方に追加負担が生じます。特に公共交通の利便性が低く、日常的に利用できない地域の住民や事業者から見れば、負担と受ける利益の関係が分かりにくい可能性があります。
税を導入する前に、既存予算の見直しや国費の活用が十分に行われているか、集めた税が具体的にどの地域のどの事業へ使われるのか、利用者数や利便性が実際に改善したのかを検証できる仕組みが必要です。
滋賀県議会も2026年3月、「交通税」の導入に固執せず、県民負担への不安を踏まえて慎重に検討するよう求める決議を行っています。
店舗や事業所にも関係する地域交通
地域交通の充実は、住民の暮らしだけでなく、店舗や事業所の立地にも関係します。
従業員が通勤しやすいか、来店客が自家用車以外でも訪れられるか、駅やバス停から安全に歩けるかは、テナント選びでも確認したい条件です。
公共交通が充実すれば、駅前や主要なバス路線沿いで人の流れが変化する可能性があります。一方、路線や運行本数が変わっただけで、周辺店舗の売上が自動的に増えるわけではありません。
停留所からの距離、運行時間、利用者の年代や移動目的、駐車場との使い分けなどを、実際の商圏と合わせて見る必要があります。
まとめ
滋賀県では、2026年度から2030年度までの「滋賀地域交通計画」に基づき、鉄道やバスの維持、デマンド交通の充実、広域連携、自動運転などの取り組みを進めています。
その財源として検討されている「新たな税」は、個人と法人の双方が負担する仕組みが候補となっていますが、導入、税率、開始時期、具体的な使途はいずれも決定していません。
公共交通を将来に残す必要性と、県民や事業者に生じる新たな負担。その両方を見ながら、どのような交通サービスを実現し、そのために誰がどの程度負担するのかを具体的に議論することが重要です。
今後は、税の名称や負担額だけでなく、対象となる事業、地域ごとの効果、既存財源との関係、導入後の検証方法にも注目する必要があります。
テナントテラスでは、滋賀県内の店舗・事務所・倉庫などの事業用物件を取り扱っています。公共交通や車の動線、周辺環境を踏まえた物件探しや空き店舗の活用についても、お気軽にご相談ください。
参考情報
・滋賀県「みんなの移動を支え、暮らしを豊かにする新たな税の現在の検討状況」
・滋賀県「滋賀地域交通計画(素案)に対する意見・情報の募集結果」
※本記事は2026年10月13日時点で公表されている資料をもとに作成しています。新たな税の導入や制度の内容は決定していません。今後の検討により内容が変更される場合があります。













