店舗や事務所でエアコンが故障したとき、「建物に付いていた設備だから貸主が直すもの」「前のテナントが残したものだから借主が直すもの」と考えていないでしょうか。
実際の修理負担は、エアコンが設置されていたという事実だけでは決まりません。
確認すべきなのは、誰の所有物か、契約上どのように扱われているか、故障時の修理・交換費用を誰が負担する契約になっているかという3点です。
今回は、店舗と事務所で異なることが多いエアコンの扱いと、貸主・借主が契約前に確認しておきたいポイントを解説します。
まず知っておきたい「設備」と「残置物」の違い
賃貸物件でいう「設備」は、一般に、賃貸借の対象として貸主が使用できる状態で提供するものを指します。契約上も貸主設備として扱われ、通常の使用中に故障した場合は、貸主が修理や交換を行うケースが多くなります。
一方の「残置物」は、前の借主などが退去時に残したエアコンや照明、給湯器などを、貸主が撤去せず、そのまま次の借主が使用できるようにしているものです。
残置物は物件に付いていても、貸主が性能や使用継続を保証せず、故障時の修理・交換を借主負担とするケースが多くあります。
ただし、「残置物」という言葉だけで所有権や処分方法まで自動的に決まるわけではありません。交換後の古い機器を借主が自由に廃棄できるのか、退去時に新しい機器を撤去するのかなども、契約内容の確認が必要です。

店舗と事務所で異なることが多いエアコンの扱い(一般的な傾向)
店舗物件では、既設エアコンでも残置物扱いが多い
店舗物件では、業種や店内レイアウトによって必要な空調能力や設置位置が大きく異なります。
美容室、飲食店、物販店、診療所などでは、前のテナントが内装工事と一緒にエアコンを設置していることも珍しくありません。そのため、居抜き店舗に残っているエアコンを残置物とし、貸主は動作や修理・交換を保証しない条件で募集されるケースがあります。
借主にとっては、既設エアコンを使えれば初期費用を抑えられる一方、入居直後に故障すれば修理や入替えにまとまった費用がかかります。
「エアコンあり」と募集資料に書かれているだけで、貸主が修理してくれる設備だと判断しないことが大切です。
事務所仕様の物件では、貸主設備となることが多い
あらかじめ事務所として内装や空調が整えられたオフィス物件では、エアコンを貸主設備として扱うケースが多く見られます。
特に、ビル全体の空調設備や天井埋込型エアコンなど、借主が自由に撤去・交換しにくい機器は、貸主側で保守や更新を行うことがあります。
ただし、事務所だから必ず貸主負担とは限りません。室内の個別空調を残置物とする契約や、貸主所有の設備であっても修理・交換費用を借主負担とする特約が設けられる場合もあります。
物件の用途や見た目ではなく、設備表と賃貸借契約書の記載が判断の基準になります。
「貸主の所有物」と「貸主が修理する設備」は同じではない
エアコンの所有者が貸主であっても、契約によっては借主が修理費を負担する場合があります。反対に、前の借主が設置した機器を貸主が引き取り、貸主設備として契約に含める場合もあります。
つまり、次の3つは分けて確認する必要があります。
・そのエアコンを誰が所有しているのか
・賃貸借の対象となる設備か、無償使用できる残置物か
・故障時の修理、交換、撤去を誰が行い、誰が費用を負担するのか
民法では、賃貸人は賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負うことが原則とされています。ただし、借主の責任で修繕が必要になった場合を除きます。また、事業用賃貸では設備ごとの修繕負担を契約で具体的に定めることがあるため、実際には契約書と特約の確認が欠かせません。
賃貸借の修繕に関する基本的なルールは、e-Gov法令検索「民法」および法務省「賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」で確認できます。
契約前に確認したい5つのポイント

エアコンをめぐるトラブルを防ぐための契約前チェック
1.設備表と契約書の記載が一致しているか
募集資料には「エアコンあり」とだけ記載され、設備か残置物かが分からないことがあります。重要事項説明書、設備表、賃貸借契約書、特約の記載を確認しましょう。
2.現在の動作状況と製造年
内見時に作動していても、古い機器は短期間で故障する可能性があります。製造年、型番、修理履歴を確認し、必要であれば専門業者による点検を検討します。
3.修理・交換・定期清掃の負担
故障修理だけでなく、フィルター清掃、定期点検、部品交換、機器本体の更新を誰が負担するのかを確認します。「小修繕は借主、大規模な交換は貸主」など、費用区分が設けられている場合もあります。
4.交換時に貸主の承諾が必要か
借主負担で交換する場合でも、建物への穴あけ、配管、電気容量、室外機の設置場所などが関係します。貸主や管理会社へ無断で工事を進めないようにしましょう。
5.退去時の原状回復
借主が新しいエアコンへ交換した場合、退去時に撤去するのか、貸主へ無償譲渡するのかを決めておく必要があります。契約時に曖昧なままにすると、退去時の費用負担で再び問題になります。
貸主側は「保証しない」だけで終わらせない
貸主が既設エアコンを残置物として扱う場合は、契約書に明記するだけでなく、借主へ分かりやすく説明することが大切です。
残置物であること、故障時の費用負担、交換時の承諾、退去時の扱いまで整理しておけば、借主も設備更新費を事業計画に織り込めます。
機器の型番や製造年を記録し、引渡し時の動作状況を写真やチェック表に残しておくことも、後日の認識違いを防ぐうえで有効です。
故障したときは、まず契約確認と連絡から
エアコンが故障した場合、借主はすぐに処分や交換をせず、まず設備表と契約書を確認し、貸主または管理会社へ連絡しましょう。
故障状況の写真、エラー表示、修理業者の見積書などを共有し、修理するのか交換するのか、費用を誰が負担するのかを書面やメールで合意してから進めることが重要です。
貸主側も、真夏の営業に支障が出る店舗や事務所では、回答の遅れが借主の売上や従業員の安全に影響することを理解し、契約上の扱いを速やかに確認する必要があります。
設備の扱いは、入居してからではなく契約前に決める
店舗では残置物扱い、事務所では貸主設備となる傾向がありますが、すべての物件に当てはまるルールではありません。
貸主にとっては修繕負担の範囲を明確にし、借主にとっては開業後に必要となる設備更新費を把握することが大切です。
エアコンの有無だけでなく、設備か残置物か、誰が修理・交換するのか、退去時にどうするのかまで確認することが、双方にとって納得できるテナント契約につながります。
参考資料
※本記事は一般的な契約実務を解説したものです。設備の修理義務や費用負担は、物件の状況と個別の契約内容によって異なります。













