物価や人件費、建築費など、さまざまなコストが上昇するなか、テナント物件でも賃料の見直しが話題になる場面が増えています。
貸主から見れば、建物を維持するための修繕費、保険料、税金、管理費などの負担が重くなっています。一方、店舗や事務所を借りるテナントも、仕入価格、人件費、光熱費などの上昇に直面しています。
そのため、賃料改定は「貸主が値上げを通知し、借主が受け入れる」という単純な話ではありません。
なぜ見直しが必要なのか、現在の賃料は周辺相場と比べてどうなのか、事業を継続できる条件なのかを、貸主・借主の双方が確認する必要があります。
今回は、テナント賃料が見直される背景と話し合いを進める際に確認したいポイントを解説します。
※画像は話し合う場面を表したイメージです。
なぜ今、テナント賃料の見直しが増えているのか
テナント賃料の見直しが検討される背景には、物件を取り巻く経済環境の変化があります。
国土交通省が公表する「建設工事費デフレーター」でも、建設工事に関する価格の変動が継続的に把握されています。建築資材や工事の人件費が上がれば、外壁、防水、空調、給排水、消防設備などの修繕・更新費用にも影響します。
貸主側では、次のような負担が賃貸経営に影響します。
・建物や設備の修繕・更新費用
・清掃、点検、警備などの管理費用
・火災保険料や施設賠償責任保険料
・固定資産税や都市計画税
・借入金利を含む資金調達コスト
ただし、貸主の負担が増えたからといって、その増加分をそのまま賃料へ転嫁できるとは限りません。物件の市場性や現在の契約条件を含めて判断する必要があります。
また、借主側にも人件費、原材料費、仕入価格、光熱費などの上昇があります。賃料は事業の固定費であるため、値上げ幅によっては店舗や事業所の収支に大きく影響します。
賃料は契約時の金額がずっと続くとは限らない
建物の賃料については、借地借家法第32条に「借賃増減請求権」が定められています。
同条では、土地・建物に対する税金その他の負担、土地・建物価格や経済事情の変動、近隣にある同種建物の賃料との比較などにより、現在の賃料が不相当となった場合、貸主または借主は将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。
つまり、賃料の見直しは貸主からの増額だけではなく、状況によっては借主から減額を求める場合もある制度です。
一方で、貸主が「来月から賃料を上げます」と通知しただけで、当然にその金額へ確定するわけではありません。提示された金額に合意できなければ、当事者間での交渉が必要になります。
また、一定期間は賃料を増額しない旨の特約がある場合など、契約内容によって扱いが異なることもあります。まずは賃貸借契約書を確認することが出発点です。
賃料改定の根拠となる三つの視点
賃料を見直す際は、主に次の三つの視点から現在の賃料が妥当かを確認します。
1.税金など物件に対する負担の変化
固定資産税、都市計画税など、土地・建物を所有するための負担が契約時からどの程度変わったかを確認します。
2.土地・建物価格や経済事情の変化
地価、物価、建築費など、契約締結時または前回の賃料改定時から経済環境がどのように変化したかを確認します。
3.近隣にある同種物件の賃料
同じ地域にある店舗・事務所の賃料と比較し、現在の賃料が著しく低い、または高い状態になっていないかを確認します。
これらは一つだけで結論を出すものではありません。物件の立地、面積、築年数、階数、駐車場、設備、契約期間などを含めて総合的に考える必要があります。
募集賃料と継続賃料は同じではない
賃料改定で注意したいのが、現在募集されている物件の「募集賃料」と、すでに契約が続いている物件の「継続賃料」は、同じ考え方ではないことです。
周辺の募集賃料が上がっていることは参考になりますが、「近くの物件が坪1万円で募集されているから、現在の賃料もすぐ坪1万円にできる」とは限りません。
募集賃料には、実際に成約していない物件や、内装・設備・立地条件が異なる物件も含まれます。
継続中の契約では、契約開始からの経緯、前回合意した賃料、賃料を据え置いてきた期間、貸主・借主が行った改修なども考慮されます。
比較する際は、募集広告の金額だけではなく、できる限り条件が近い成約事例や、契約の経緯を確認することが重要です。
貸主が賃料改定前に準備したい資料
貸主が賃料の増額を申し入れる場合、「コストが上がったから」という説明だけでは、借主の理解を得にくいことがあります。
話し合いの前に、次の資料を整理しておくと、増額の理由を説明しやすくなります。
・現在の賃貸借契約書と過去の変更契約書
・契約開始時からの賃料改定履歴
・条件が近い周辺物件の賃料資料
・固定資産税などの負担が分かる資料
・これまでに実施した修繕や設備更新の記録
・今後予定している修繕や維持管理の内容
・希望する改定額、改定時期、算定の考え方
大切なのは、賃料を上げることだけを目的にするのではなく、建物を安全に維持し、テナントが営業を続けられる環境をどのように確保するかまで説明することです。
※画像は建物を確認する場面を表したイメージです。
借主が増額の申し入れを受けたときの確認事項
借主は、増額の申し入れを受けたからといって、内容を確認せずに承諾する必要はありません。一方、理由を確認せず一律に拒否することも、良好な解決にはつながりにくいでしょう。
まずは、次の点を確認します。
・増額を求める具体的な理由
・周辺相場として示された物件が本当に類似しているか
・月額と坪単価でどの程度上がるのか
・賃料だけでなく、共益費や駐車場代を含めた総負担額
・増額の開始時期と、自社の収支に与える影響
・建物の修繕や設備改善がどのように行われるか
提示された条件では事業への影響が大きい場合は、根拠資料の提示を求めたうえで、増額幅や時期について相談する方法があります。
なお、協議中だからといって賃料の支払いを止めることは避けるべきです。増額に合意できない場合の支払方法には法的な影響があるため、判断に迷うときは弁護士などの専門家へ相談してください。
一度に上げる以外の調整方法もある
現在の賃料と適正と考えられる賃料に差があっても、一度に大幅な増額を行うと、借主の事業継続が難しくなる場合があります。
貸主・借主双方の負担を抑えるため、次のような調整方法も考えられます。
・二段階、三段階に分けて賃料を改定する
・一定期間後に再度協議する
・改定時期を繁忙期や決算期とずらす
・修繕や設備改善の実施時期と合わせて協議する
・賃料、共益費、駐車場代を含めた総額で調整する
貸主にとっては長く安定して借りてもらうことに価値があり、借主にとっては事業を継続できる立地を確保することに価値があります。
目先の金額だけでなく、今後も契約を継続する前提で着地点を探すことが重要です。
避けたいのは「一方的な通知」と「話し合いの放置」
賃料改定では、最初の伝え方がその後の関係に大きく影響します。
貸主側は、根拠を示さずに大幅な増額を通知したり、承諾しなければすぐ退去を求めるような伝え方をしたりすると、借主の不信感につながります。
借主側も、通知を無視したり、感情的に拒否したり、自己判断で賃料を支払わなくなったりすると、問題が深刻化するおそれがあります。
当事者間で合意できない場合には、不動産会社、弁護士、不動産鑑定士などへ相談し、必要に応じて民事調停などの手続きを検討することになります。
裁判所の民事調停は、裁判所が当事者の間に入り、話し合いによる解決を目指す手続きです。できるだけ早い段階で第三者を交えることが、対立の長期化を防ぐ場合もあります。
賃料改定を進める五つの手順
1.契約内容と改定履歴を確認する
契約期間、更新時期、賃料改定に関する条項、過去の合意内容を確認します。
2.現在の賃料を客観的に検証する
周辺相場、物件条件、税負担、経済環境、これまでの修繕などを整理します。
3.金額と理由を書面で提示する
改定希望額だけでなく、その金額を求める理由と開始希望時期を明確にします。
4.双方の事情を確認して協議する
貸主の維持管理負担と、借主の事業収支の両方を確認し、段階的な改定を含めて話し合います。
5.合意内容を書面に残す
新しい賃料、適用開始日、共益費、消費税、次回の見直し時期などを変更契約書や覚書に記載します。
まとめ
物価、建築費、修繕費などが上昇するなか、長期間据え置かれてきたテナント賃料を見直す動きは、今後も続くと考えられます。
ただし、貸主側のコスト上昇だけで増額幅が決まるわけではありません。周辺の類似物件、現在の契約内容、賃料改定の履歴、建物の状態などを総合的に確認する必要があります。
貸主は増額の根拠を分かりやすく示し、借主は事業への影響を具体的に伝える。そのうえで、段階的な改定なども含めて、双方が継続できる条件を探すことが大切です。
テナントテラスでは、滋賀県内の店舗・事務所・倉庫などの賃貸仲介に加え、事業用物件の賃料査定や契約条件のご相談にも対応しています。テナント賃料の見直しや、周辺相場の確認をご希望の貸主・借主の方は、お気軽にご相談ください。
※この記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の契約に対する法的判断を行うものではありません。具体的な紛争や法的手続きについては、弁護士などの専門家へご相談ください。
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